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10月3日の小話。
エルリック一家。
エドは今日、ずっと落ち着かない様子だった。
声をかけても上の空でそわそわしているのにぼんやりしている。
たとえ彼の愛息子が彼の足を踏んでも、愛娘が彼の長い髪を引っ張って遊んでも、反応は煮えぎらないもの。
いつもなら追いかけてくる父を不審に思った子どもたちは、心配をして私に報告をしてくれる。
彼らの頭を撫でて、私はカレンダーを見た。
彼は銀時計を返してもなお、刻んでいるのだろう、今日を。
「エド、トリシャさんとホーエンハイムさんに会いに行こっか」
そう言うと彼はやっと私と目を合わせる。
「えっ?」
少し驚いたようだったが、すぐに息を吐くように笑って「ああ」と言った。
あの日から10年以上がたって、色々なことが変わった。
それはきっとエドにも、もちろん私にも予想できないことだった。
けれど、きっとあの時より私たちは多く笑っているような気がする。
小さな手をひいて私たちは、ぽてぽてと歩いていく。
二人のお墓の前に彼は立った。
トリシャさんの好きだった花を、子どもたちがふわっと二人の前に置く。
「おじいちゃんおばあちゃんっ」
きゃっきゃっとはしゃぐ子どもを、エドは笑ってみた後お墓に向かう。
「ごめん」
彼の言葉は謝罪から始まった。
なんとなくは予想していたのだけれど。
二人の子どもを持って、彼はずっと思っていたのだと思う。
家をなくす、ということについて。
「オレさ、家と家族を持って、分かった」
当時としては覚悟として彼はああしたけれど、
「家をなくすのは物をなくすことではないんだな・・・って。」
「すごく、悲しいことだよな」
父の気持ちも、母の気持ちも知らずに行ったことだったが、それがどんなに悲しいことかエドは知ったのかもしれない。
今までだって、もちろんあの家を燃やしてしまった日だって、知ってはいたはずだけれど。
彼はもっと、家族や家を持つということを知ったのだろう。
「ごめん、親父。ごめん、母さん。」
ただただ真摯に謝っていた。
ふと、彼は私の方を向いて笑った。
「気づいたんだ、今日は家族の大切な物を・・・オレが燃やした日。」
あんまりにもさみしそうに言うから、私は少し泣きそうになってしまう。
けれど、笑いたかった。
「・・・、お家がなくなっても、二人のことエドもアルも覚えてるじゃない。いいのよ、それで」
なくしたものがない、とは言えないけれど、エドとアルにとって大切なものはちゃんと残ってる。
あんまり上手には笑えなかったから、エドの頭を力任せに撫でておく。
「大丈夫だよ」
安心していいよって言いたくて。
ぐりぐりと彼の頭を撫でていると強すぎたのか、抗議の声が上がる。
「ちょ、や、やめ・・!」
そして、子どもたちが走ってやって来て、私をまねようとする。
「父さん!!」
言いながらぐいぐいとエドの頭を押したり引いたり。
「お前らぁ!こら!」
いいながらエドは子どもたちを追いかけはじめる。
いつもの彼のように。
置いた花束の花弁が、風に乗ってエドの横を通り過ぎた。
疲れ果てた子どもたちを抱きかかえて、私たちは夕日を背に帰っていく。
「・・・・」
穏やかな無言。
「ウィンリィ、」
エドは呟くように言った。二人前を向いたまま。
「ありがとう」
いつもの彼の言葉に、ゆっくりと彼の方を見る。
そしたら目があって、笑ってしまう。
彼が今日をずっと刻んだままということに変わりはないけれど、少しずつ変わっていくことを感じた。